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2010年11月

2010年11月27日 (土)

誤った貧困対策

最近、日本では「闇金融」(ヤミ金)による被害が増加しています。また、今後、さらに被害が増加することが危惧されています。その理由は、グレーゾーン金利の規制などサラ金への規制により、サラ金の経営が悪化し資金量が減少すると同時に、貸出基準が厳しくなり、サラ金から借りることができなくなった人々が増えているということです。このような人々がヤミ金の餌食になるのです。

同じような事例を英エコノミスト誌(11月20日ー26日号)が報じています。途上国で普及しつつあるマイクロファイナンスですが、政府が金利規制をかけることによって、マイクロファイナンス機関の利潤が縮小し、資金調達が難しくなっているのです。例えばバングラデシュでは現在上限金利は年27%とされています。インドはマイクロファイナンスが近年急速に拡大してきましたが、各州が金利規制を導入することによってマイクロファイナンスの経営に困難が生じてきているのです。http://www.economist.com/node/17522606?story_id=17522606

このような規制は「貧困層が借金を抱えて苦しんでいるのを助ける」という政治的主張を背景にしています。「貧困対策」として主張されると世論の支持を得てしまいます。しかし、このような規制のもたらす結果は、多くの貧困層がマイクロファイナンスから資金を借り入れできなくなり、村の高利貸に依存するようになってきてしまっていることです。インドでは毎年数万人の農民が借金苦から自殺に追い込まれています。このような悲劇はマイクロファイナンスの高金利ではなく、さらに高金利の高利貸に資金を依存していることから生じています。日本のヤミ金問題と同じです。

「貧しい人はかわいそうそうだ」「貧困対策は最優先だ」のような心情が時として大きな誤りをもたらすことがあります。派遣労働の規制が労働者保護のために主張されますが、それによってむしろアルバイトなどのさらに不安定な雇用が増加する懸念があります。最低賃金の引き上げは雇用をかえって雇用を減少させることになります。借地借家において、借主の権利を強化したり家賃を規制したりすれば、住宅の供給は減少して、かえって持家がない人々が困ることになります。

「貧困対策」「かわいそうな人々を助けたい」。このような心情は確かに人々の共感と連帯を高めます。そのこと自体は素晴らしいことなのですが、それを実際に政策や支援活動に移す場合は冷静な分析と判断が必要です。心情だけで動くことはたいへん危険なのです。

では、マイクロファイナンスを貧困層にとってもっと使いやすいものにするためにはどうすればよいのか? エコノミストは借り手の信用情報を整理して金融業者で共有する方法を提唱しています。借り手がどこからどれだけ借りているのか。そのような情報をきちんと整備して、生活や生計活動の状況も含め、借入返済計画についても貸し手の側でアドバイスができれば、多重債務の悲劇や貸し倒れは減少し、マイクロファイナンス運営のコストを減らすことができます。

実は、多くの開発途上国で、現在、政府や行政の電子化にあわせ貧困層のデータベース作りが進んでいます。一人一人の貧しい人々の情報があれば、個々の貧困状況に合わせたきめ細かい対策が可能になり、政策のコストもさげることができます。「情報の非対称性」を克服する試みといっていいでしょう。今後の展開を期待したいです。

2010年11月22日 (月)

枯渇性資源と採掘利用する権利 The Plundered Planet

中国のレアアースの「禁輸」以来、資源が国際的な大きな関心事項となっています。領土や経済水域の中にある資源を自国に囲い込み戦略として使う動きが広がっています。自由貿易は第二次世界大戦後の平和を維持する基本的な枠組みであったわけですが、これに反して、1973年の第1次石油危機をはじめ、資源保有国が自国資源の貿易を制限することを武器とすることが行われてきており、これを防止する国際的な枠組みはありません。しかし、そもそも自国領域の資源を自由に処分できる権利がその国に認められるというのは当然のことでしょうか?

どのような財産権も制約を伴います。法学を学ぶと最初に出てくるケースが、源泉から温泉場まで引いてくる温泉の配管の設置を阻んだ「身勝手な」地主の話です。公共の福祉の立場から権利の行使が制約されることがありうるよいう国内法では確立された原理を国際的に確立することができれば、資源を保有する国に、その資源の処分に伴う責任を負担させることが可能になります。具体的には収奪的な採掘の禁止、資源収入の国際的な分配、特に、資源を保有しない貧困国への配慮、国連決議による経済制裁の場合を除く政治的な禁輸措置の禁止などです。

ポール・コリアー(Paul Collier)教授の近著「略奪される地球(The Plundered Planet)は人間による資源の収奪とそれを防止するメカニズムの問題を論じている極めて注目すべきものです。コリアー教授は、世代間の資源利用の公正について論じています。石油のような枯渇性の資源において、現在生きている人間が、現在の権利に基づいて資源を採掘、利用してしてしまってよいのかという問題です

森林などの再生可能な資源については、昔からコミュニティーの共同管理で適切な利用と再生をはかるという慣習法的なメカニズムが確立していました。国際開発の分野でのコミュニティーの再評価はこのようなメカニズムを復活させようとするものです。漁業資源の管理や気候変動、生物多様性に関する国際的な枠組みも利用と保全のバランス確保を目指したものといえます。しかし、石油のような枯渇性資源の国際的管理を目指す取り組みは本格的な議論が行われていないのが現状です。石油が枯渇していく過程では価格メカニズムを通じ、価格の高騰に対応して代替エネルギーの開発が進むという楽観的な見方もありますが、価格の急騰やそれに伴う外交政治的な混乱などの大きなインパクトは避けて通れないと思います。枯渇性資源の保全と利用について真剣に向き合うべき時期が来ています。

2010年11月 7日 (日)

開発貢献度指標 (Commitment to Development Index)2010

2010年度の日本の開発協力の国際評価は22カ国の援助供与国の中で21位。1位はスウェーン、2位デンマーク、3位オランダ。

今年も、CDI(Commitment to Development Index)の季節がやってきました。CDIは、このブログの話題のソースとしてよくとりあげる米国のシンクタンクCenter for Global Development(CGD)が毎年とりまとめ、これもまたよく引用するForeign Plolicy(FP)誌に掲載されています。というよりも、私にとってCDGやFPと出会ったきっかけがこのCDIだったといってもいいでしょう。今年の最新バージョンがCGDのWEBサイトで閲覧できます。

もう8年近く前になりますが、2003年1月にカイロで開催された国際会議で、CDGを主宰するナンシー・バードサル(Nancy Birdsal)氏が、先進国が途上国の開発にどのように貢献しているかを指標化することを提案し,、先進国を指標でランキングした原案を提示しました。これがCDIの発端で、MDGs(ミレニアム開発目標)の8番目の項目、先進国と途上国のパートナーシップの構築に関係しています。所得や保健、教育などに関して途上国が達成すべく目標には数字で示された指標があるのに、先進国の努力に関しては何もないではないか、ということが議論の出発点でした。先進国の政策の途上国への影響については「政策の一貫性(Policy Coherence)」の考え方が取り入れられました。6月25日のこのブログの記事をご参照ください。

このとき、カイロの国際会議でバードサル氏より示された指標の原案は、OECDの開発援助委員会(DAC)に加盟している援助供与国21ヶ国(当時)を、援助、貿易、投資、移民、安全保障、環境の項目でランク付けし、さらに総合ランキングをつけたもので、日本が最下位にランクされていることから、日本の援助関係者には衝撃が走りました。同年4月にはFP誌でも記事が掲載され、このランキングは広く知られるところとなりました。日本は2003年当時、まだ90年代に世界最大の援助国だった頃の余韻が冷めやらないころで、「最下位」という衝撃的な評価は日本の援助関係者の「自己評価」と大きく食い違い、反発や無視なども含めてこの指標に対する評判は日本では散々なものでした。それ以来毎年日本は最下位の連続です。2年前に韓国が加わったことで、最下位の指定席は韓国に明け渡しましたが、最下位から2番目以上に這い上がれません。

私自身は、その後、この指標を作成した担当者かつ責任者であるCGDのロッドマン(Rodman)氏ともお話する機会がありました。確かこの指標は多くの計算上の問題があることは事実ですが、私は、日本の国際協力に関する「第三者評価」としては的を得ていると思っています。

日本が点が低い大きな理由は、CDIの最初からほぼ同じです。援助では、開発途上国へのネットの援助額に国民総所得(GNI)に占める比率の低さ(11%)です。日本の国民総所得は世界第2位(最近中国に抜かれて第3位)ですので、これを分母に援助の比率を出すと、かなり比率は小さなものにならざるを得ません。援助の項目で上位の常連はスウェーデン、オランダ、デンマークなど国民総所得で見れば小国です。ただし、英国のようにGNIが大きくてもこの比率が高い国もありますから、あまりいい言い訳にはなりません。また、日本は借款による援助が多いため、ネットの数字では、途上国から返済されてくる金額を差し引かなければなりません。中国やタイなど、これまで多額の借款を受け入れていた国々が日本の援助から「卒業」し、これらの国々からは返済だけになりますので、ネットのODA額はこれからどんどん減っていく要素が多いです。場合によってはマイナス(途上国から還ってくる金額のほうが多くなる)になるかもしれません。日本はこれから、このような「マイナスのODA」という事態にどう向き合っていくのかが課題です。また、NGOなど民間活動への減免税措置が他国に比べて見劣りしていることもマイナスに評価されています。

貿易ではコメなどの農産物の高関税や途上国の繊維製品に対する不十分な優遇措置がマイナスとして評価されています。農産物の問題では特に日本の農産物への高関税が世界的にも目立ちます。環太平洋経済連携協定(TPP)について現在議論が行われているように、国内の農業の競争力強化と市場開放は避けて通れません。日本の問題に対処が遅れればTPPや自由貿易協定(FTA)に積極的な韓国に追い抜かれ、このCDIでも早晩、韓国が日本に最下位の地を譲ることになるでしょう。移民では、途上国からの留学生の受け入れ政策は高く評価されている反面、移民労働者への制限的な政策や難民受け入れの少なさなど、日本の人的な鎖国政策が指摘されています。安全保障では武器の輸出を行っていないことについては諸国中トップの評価を得ていますが、国連PKOなどへの人的貢献では最低クラスの評価です。

CDIはこの8年間、改良が加えられてきており、日本の得点が比較的高い「科学技術」の項目が加えられたり、日本の「武器輸出3原則」が積極的に評価されたりなど、日本にとってもより「不利でない」評価に近づきつつあると思います。多くの日本人、とりわけ国際協力関係者にとって面白くない評価だと思いますが、これも外部評価の一つです。外部評価が重要な点は、そこで自己評価とのギャップに気がついくきっかけになる点です。CDIは、援助のみならずグローバル社会の中で日本抱える問題を、的確にあぶりだしていると思います。

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