« 2010年8月 | トップページ | 2010年10月 »

2010年9月

2010年9月20日 (月)

インド・持続的開発の現場から:荒地を緑に(1)

8月23日から9月の4日までインドに赴き、持続的発展へ向けたさまざまな取り組みを学ぶことができました。順次ご報告していきます。

地球環境の保全、気候変動の防止、貧困の削減などは世界的な取り組みが必要な課題とされ、国際機関や各国による協力が行われています。今週、レビューが行われるミレニアム開発目標(MDGs)もそのような国際的なイニシアティブのひとつです。さまざまな会合を通じて、国際社会が共通認識を形成し、協力してプログラムを実施するのは大変重要なことですが、問題は会議、会合だけでは解決しません。実際の開発の現場、人々の生活が行われている場で、利害を調整しながらできることから実施していく努力の積み重ねが必要なのです。政治レベルで何かが決定されて、それで問題が解決したように錯覚することは大変危険です。その意味で、私は国際機関や政治家レベルの「ハイ・ポリティクス」からは一歩距離を置きたいと思います。

S001022

左の写真は1995年の2月に私が撮影したものです。場所はインド南部ケララ州のパラカッド地方のアタパディ(Attappady)地域です。山の頂上までほとんど木が生えていません。森林が伐採され、耕作が行われていますが、よく見ると段々畑や棚田のように、等高線に沿って平面を耕す方法ではなく、山の傾斜面がそのままむき出しになっています。これでは、雨が降れば土流れていってしまいます。土壌の急激な喪失と土砂の崩壊、これがこの地方が当時「荒廃地(waste land)」と呼ばれていた理由です。荒廃の防止と植生、生態系の回復を目指したプロジェクトへの支援の要請が日本に対してあり、当時担当だった私が現地に赴いたという事情です。

この土地の荒廃にはいくつかの理由がありますが、ケララ州、および隣接するタミールナド州の平地より、未開発で土壌も比較的良好だったこの地方に、1950年代から80年代にかけて大量の移住者がいたことです。この地域はもともとは原住の山地民が自然資源に依存しながら生活していましたが、これらの山地民は山奥へ追いやられ、また移住してきた平地民も急速に開墾等を進めました。このことから伐採による農地転用、あるいは薪炭等の確保などの理由により、急速に森林が失われました。土壌流失を招くような耕作方法の背景には農民の知識不足があります。タピオカのように換金性は高いが土の養分の消費が激しい作物を栽培したことも荒地化に拍車をかけました。

そこで、森林の保護と植林が必要になりますが、かって、インドの森林行政は警察そのものでした。今でもその名残があって、レンジャーは警察のような制服を着用しています。要するに「木を切るな」「植林地に入るな」という行政です。しかし、これでは森林保護の実効性が向上しないことにインド政府も気がつきました。森林資源に依存している住民にとって、森林への立ち入りが禁止されることは、薪などの生活の糧を奪われることになります。また、植林地が一方的に指定されると、家畜の放牧にも大きな影響が出ます。人々の生活を無視した形の「取り締まり行政」では、住民の協力を得ることは難しく、行政と住民の溝も深くなってしまいます。そこで1980年代から、住民の協力を最大限に得られる方法への転換が行われるようになりました。それは、住民の意見を十分に聞いて。住民とともに考え、計画し、実施するという方法です。森林の保護や植林について住民もメリットが感じられれば、自発的な協力を得ることができるのです。

森林プロジェクトは「参加型開発」の最前線というこができます。参加型農村調査(Participatory Rural Appraisal:PRA)の実施など、世界的に見てもインドの村々は参加型開発の先進地です。

S290 右の写真は最近(8月末)に撮影したものですが、森林が回復してきている様子がよくわかります。このアタパディ地域で取られた方法は以下のようなものです。

まず 、荒れた山を上段、中段、下段の3段階に分けます。上段は森林の植生を回復させることが目的で、薪の伐採や放牧を規制して、植林が行われます。多少の果実の採取などは認められるようで、樹種については住民と十分に協議して決めます。

中段は、果樹作物の栽培や商業的な林業を認める地域です。たとえば、ジャックフルーツ、柑橘類などの多年生の樹木を植えてそこから果実を採取して食用、販売したり、再生可能な方法で樹木を活用することも認められます。たとえば、高価な白檀(びゃくだん)の木を植えて、成長した後に販売したり、桑を植えて葉を採取し養蚕を行うことなどで、現に行われています。

下段は畑作などを行うことが可能ですが、等高線耕作など、科学的な耕作方法で土壌流出を防止することが図られます。

S255_2 このような、仕組みにより、住民も所得が向上して、森林の保全に積極的に協力するようになります。この点については、次回、重点的にお話しますが、今回は、このような植生の回復がさまざまな環境改善効果をもたらしていることに触れたいと思います。

森林資源の管理の基本は土壌の水分の維持で、地下水位の確保がきわめて重要です。荒地の状態では、雨が降れば水は土を洗い流しながら一気に流れてしまいます。この地域はインドの西部を南北に走るガート山脈の一部ですが、インド洋モンスーンの関係で、山の陰になる山脈東側は年間降雨量が東京などの半分程度の年間700~800ミリしかありません。しかも、雨季の2~3ヶ月にまとめて降ってしまいます。このようなことから、乾季の水の確保も住民の大きな課題でした。植生が回復することはいうまでもなく、保水能力を向上させます。地下水への浸透も大きくなります。この結果、年間4~5ヶ月しか水流がなかった川が、現在ではほぼ通年水流がある状態になるなど、顕著な改善が見られているところが出てきています。

植生が回復することは、動植物(Fauna and Flora)に大きなプラスをもたらします。アタパディ地域は紅茶で有名なニルギリ山に隣接しており、生物多様性のホットスポットのひとつです。隣接する自然保護地区などへの波及効果も大きなものと見込まれています。

(続く)

2010年9月 2日 (木)

インド滞在中です(ブログ更新が遅れて申し訳ありません)

8月23日からインドに来ています。29日までバンガロールに、その後1日までタミールナド州西部のコインバトールに滞在しました。 1日の夕刻にデリーに到着し、明日(3日)までいます。インドはインターネットの事情が数年前に比べて格段に改善されましたが、旅先なので、十分なインターネット環境が構築できません。このためブログの更新が滞ってしまいました。インドの状況は、追って「インド」持続的発展の現場から」(仮題)というシリーズで何回かご報告したいと思います。

今回バンガロールは15年ぶりでしたが、インドの”ITキャピタル”という評価とは裏腹に、交通渋滞がかなり深刻な問題になっています。市内のわずかな距離の移動も1時間以上を要する状況で、都市機能のマヒが深刻化しつつあります。デリーの状況はもっとひどく空港からわすか10キロほどのホテルまで2時間近くかかりました。これは自動車のすさまじい普及によりものですが、インフラがまったく追いついていません。 現在、日本の協力などを得て都市交通機関の建設が行われていますが、市民全体が公共交通機関を利用する社会的な意識がたかまらないと、なかなか解決は難しいでしょう。急速なインドの経済発展に裏側にある、多くの課題の一つです。

技術の発展、新商品の登場などは、携帯電話のように社会変革をもたらしますが、社会がそれについて行かない場合、大きな問題を引き起こします。以前にご報告しました、超音波診断の普及と女児堕胎の横行もその一例です。

« 2010年8月 | トップページ | 2010年10月 »

最近のトラックバック

2016年9月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  
無料ブログはココログ

Twitter