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2010年5月23日 (日)

タイの地域格差と村おこし

個人的なことですが、再来週バンコクで国際会議があるはずでしたが、今回の騒乱で開催が危ぶまれています。

さて、ニュースでも大きく取り上げられたタイの騒乱ですが、背景にあるとされる地域格差についての認識も広がってきました。バンコクと北部、東北部などの地方との間に大きな経済格差あることは30年以上も前から言われてきたことです。もちろん、タイ政府もこれまで様々な地域振興策を打ち出してきましたが、バンコク一極集中の状況に変化はなく、結局地方の産業立地も進みませんでした。バンコクおよびその周辺がアジア全域に広がった生産ネットワークに組み込まれ、さらに金融などのハブの一つとして発展する一方で、農村部は昔ながらの農業が中心で、農産物の生産性や価格が急に上昇するわけでもないですから、所得格差の拡大が止まらない構造を根本的に変えることができなかったのです。

このような状況下、タクシン政権下で地方の振興策が講じられましたが、それが都市住民の反感を招き、現在に至る対立になっています。世界銀行の報告書「東アジアの奇跡―経済成長と政府の役割」(1993/邦訳1994)ではタイを含むアジア諸国の経済発展の要因として、「勝ち組」と「負け組」の分断を生まずに「社会的一体感(social cohesion)」を維持してきたことが指摘されていましたが、タイの場合にはそれが必ずしも堅固でなかったか、いつからか急速に弱体化したようです。プミポン国王の威光の低下も否めません。

タイと日本を比較してみましょう。日本はまず政治的にも地方に議席が多く配分され、都市部住民からは「一票の格差」という批判がありましたが、地方の声が政治に大きく反映されてきたことは事実です。公共事業の予算は地方に手厚く配分され、地方の経済、特に雇用を支えてきました。農産物、特にコメは国際市場から遮断され手厚く保護されてきました。都市の消費者は国際価格の数倍の米価を受け入れてきました。日本の場合は都市から農村に資源の移転が行われ、国民が基本的にそれを支持してきたのです。このシステムは、本来競争力を持つ都市部門を軽視し、非効率な投資を行い、資源配分を歪めているという指摘がなされています。実は、小泉改革も。この問題意識に立って、より競争的な部門に資源を配分することを可能にする改革を進めたはずでした。地方の自立を促す地方財政の改革も進められました。しかし。トータルで地方への資金移転が減ったことに大きな不満が出て、揺り戻しが生じています。「地方衰退」「地方軽視」のキャンペーンには勝てませんでした。日本でも都市と農村の関係は簡単ではありません。

タクシン政権時代に実施された地方振興策として有名なのは「一村一品運動(OTOP:One Tambon One Product)」です。日本の一村一品運動がどちらかと言うと地方の自立を目指す「運動」であったのに、タイの場合には村の発展につながるような戦略商品の開発を目指していました。S2008_080768_2

写真は、私が2008年8月に撮影したもので、タイの南部、北部などで、地域資源を生かした産業開発、地域振興を図る「産業村」プロジェクトです。これに対しては日本もODA資金で支援を行っています。正確にはOTOP運動ではありませんが、同じように地方の自立を目指す活動です。

このときはいくつかの村を回って話を聞きましたが、村の団結力、一体感を強いところでは、商品の開発も進み、収入も徐々に増加してきているという状況でした。商品も伝統的なタイシルクを生かした民芸品、農産加工品あるいは都市から若い人を呼んでくるホームステイ・プログラムなど様々でした。

S2008_080749

一村一品運動は日本初の開発モデルとして、今、世界中に普及させる運動が日本政府の支援のもとに行われています。地域が自ら発展戦略を立ててそれを実行し、また実際の活動を通じて能力向上(capacity development)を目指す、外部の支援はアイデアや市場などの機会にとどめるという方向性は、「内発的発展」の要素を含んでおり、高く評価されなければならないと思います。

一方で限界もあります。それは、よっぽど国際市場で売れる商品でも発見できない限り、基本的には市場は国内の都市であり、都市の消費者に働きかけていかなければならないことです。その意味では都市・地方の格差問題の根本的な解決にはならないかもしれません。

ただ、都市・地方のコミュニケーションを図ることは重要だと思います。タイの混乱・衝突は大変不幸な事態でしたが、都市住民が格差問題と地方振興策に関心を持つようなきっかけになればと思います。

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コメント

村おこしと言う点でですが、徳島県の上勝町の葉っぱビジネスが非常に有名だと思います。一般的な村おこしとは違い、高齢者が中心で重労働ではないビジネスですので彼らの負担も少ないです。非常にユニークで他の地域も負けじと見習うべきだと思います。
確かに、地域格差は社会が作ったもので容易に変化させることは出来ないと思いますし、村おこしの成功が地域格差への問題解決にはならないと思います。
ですが、このような一村一品運動から始め、それに付随した産業が発展し観光にも繋がっていくと考えれば、所得の面では格差は今よりは断然埋まると感じます。
あとはその地域格差をバネに奮闘し成功出来るというような神話?考え方?があれば、経済の面では克服できるのではないかと考えました。
とは言うものの、やはり都市部と地域のコミュニケーションにおいてこれらは解決しなければいけないでしょうね。

ドルトンさん

地域おこしをどのように評価するかは、3年ほど前、私自身が「日本評価学会」でセッションを企画して、議論したことがありましたが、まだ評価方法が確立しているとはいえない現状です。しかし、すこしでも所得が向上し、人々が自信をもつようになることが重要だと思います。

上勝町には3年前に行きました。機会を見つけてお話したいと思います。今週末は高知に来ています。地域おこしで名高い馬路村に行ってきます。

こんにちは。コメントさせていただきます。
わたしもタイにいったことがあるのですが、都会は交通量も多く、高いビルも、多くありましたが、田舎ですこし田舎に行った際は交通量も少なく、スーパーやガソリンスタンドがある程度でした。よく、ボランティアのサイトなどを見ていると、山岳農民をすくうといった内容のものがみられ、私が少し田舎と思ったどこにはきっと都会だったのかなと考えます。このように、日本にも栄えている部分といない部分が例えば同じ東京にもあると思いますが、タイの山岳農民の様に支援を必要としている人がいないのは本当に発展した証拠かなと思いました。このブログを観て、政府の対応というのはやはり重要であり、市民社会だけでは補えない役割があるということがわかりました。また、タイの場合、混乱がおきた7ということは、国民の意識が高く、彼らの変わりたいといった思いは多いに伝わった。それは、無視しきれないものであり、国民の意識の高さも伺えました。国が発達させようと考えたら、やはり都市や首都になりがちだと思いますが、発達させることと、貧富の差を生み出すことが別になればよいと思ましたが、たぶん発達に夢中になっていたら気づかないとも思いました。そこには、やはり違ったところに目を向ける人が必要であり、またその人たちが貧富の差をうめてくれているのかと感じました。ただ、発達する際に、伝統文かを崩してしまうなら、それほど残念なこともないと思いました。また、支援側の意見を、政府も部外者などと思わず聞くこと、どうにかしてくれると放っておかないことも大切なポイントではないでしょうか。政府に意見をどの国も支援者が言えたら現状が伝わると思います。

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